「あれっ?」と思ったら“隠れ難聴”を疑え
受話器を持ち替えると「聞こえない」
突然だが、これからいくつかの事例を列挙する。自分に同じ経験がないか、よく思い返してみてほしい。
一見して「日常生活のありふれた場面」に感じられるエピソードの中に、深刻な症状が潜んでいる可能性がある。
ケース1「テレビの音量」
茶の間でテレビを観ていると、自分には「ちょうどいい音量」なのに、妻や子供たちから「音が大きすぎる!」と文句を言われ、ボリュームを下げられてしまう。
仕方なく家族に合わせた音量で見ていると、役者のセリフやタレントのコメントが聞き取れない。
ケース2「雑踏の中で会話が聞き取りにくい」
普段、室内での家族や友人と話すときには不自由を感じないが、屋外では急に相手の声が聞こえづらくなる。特に雑踏では、大きな声で話している孫の声もかき消されてしまう。
ケース3「単語の子音・最初の音が聞き取れない」
相手が話す単語の「最初の音」が聞き取れない。たとえば「加藤(カトウ)」「佐藤(サトウ)」という名前が、「アトウ」や「アオウ」などと聞こえてしまう。
ケース4「受話器は常に決まった耳に当てている」
電話をするときはいつも右耳に受話器をあてている。
ある日、長電話になった時にケータイを左手に持ち替えると、急に電話の相手の声が「ゴソゴソ」と曇ったような音になって聞き取れない。電波状況が悪くなったのかとも思ったが、また右耳にケータイを戻すとちゃんと聞こえるようになった。
これらはすべて、「難聴」の初期症状だ。しかし、この程度の“異変”では日常生活に支障は出ないため、気に留めない人は多いのではないか。
日本補聴器工業会の発表(15年)によると、国内の推定難聴者数は約1994万人、全人口の15.2%と試算されている。しかし、このうち自分の聴力が衰えていることに気づいている人はほぼ半数の53%に過ぎないという。
難聴は、初期段階で治療すれば治る可能性は高く、進行も食い止められる。難しいのはこのように自覚症状がないケースが多数を占めるからだ。
また「歳だから仕方ないだろう」と放置しておくと、加速度的に聴力は落ちていくという。
耳鼻咽喉科専門病院・日本橋大河原クリニックの大河原大次院長がこう解説する。
「難聴の恐ろしさは、聴力が落ちることだけにとどまらないことです。聴神経腫瘍といった、命にかかわる重大疾病によって引き起こされている可能性もある。難聴の原因を一刻もはやかく突き止め、適切な治療をすることが重要です」
専門医の診断を仰ぐ必要があるかを調べる目安として、大河原院長監修のチェックリストを作成した。
2つ以上当てはまると危険!
もしかして「難聴」かも・・・・・・チェックリスト10
- 会話の最中に、度々、聞き返すことがある
- 小さなささやき声だと、何を言っているのか分からない
- 早口の人、ぼそぼそ話す人の声が聞き取りにくい
- 劇場で後方の席に座ると、セリフがよく聞き取れない
- 家族から「テレビやラジオの音が大きい」と注意される
- ドアの開閉やチャイム音に、自分だけ気づかないことがある
- 銀行、病院で名前を呼ばれても気づかないことがある
- 家族以外の人から「難聴ではないか」と指摘されたことがある
※日本橋大河原クリニック・大河原大次院長監修
「2つ以上の項目に該当する場合は、難聴の可能性があります。6つ以上なら、難聴レベルは非常に高いと考えられ、医師の診断によっては補聴器の使用などが必要になる」(同前)
週刊ポスト、四月七日号(平成二十九年三月二十四日(金)発行・発売)、p49~p51より