オーバーラップ症候群(ACO)

喘息とCOPDのオーバーラップ
(Asthma and COPD Overlap:ACO)

気管支喘息は「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性をもった気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳で特徴づけられる疾患」です。

一方でCOPDは「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することで生じた肺の炎症性疾患であり、呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す疾患」です。

COPDと喘息は異なる原因によって異なる機序で病態は形成され、気道炎症、気流閉塞の特徴や症状などは異なりますが、喘息の特徴とCOPDの特徴の両者を併せもつ場合があります。

このような病態を「喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap : ACO)」といいます。

ACO(Asthma and COPD Overlap)定義

慢性の気流閉塞を示し、喘息とCOPDのそれぞれの特徴を併せ持つ疾患である

「喘息とCOPDのオーバーラップ診断と治療の手引き 2018」より

ACOの概略図

ACOの概略図

以前はオーバーラップ症候群を「喘息の特徴とCOPDの特徴および持続性気流閉塞を有する特徴を示す」と定義し、「Asthma and COPD Overlap Syndrome(ACOS)」と呼称していましたが、“症候群”は原因不明で臨床症状や検査所見など共通の病態の場合に使われる言葉であること、喘息もCOPDも単一ではなくさまざまな機序によって病態が形成され、特徴も多様性を認める疾患であることから“症候群”という言葉を外して「喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap : ACO)」と呼称することがガイドラインで提唱されました。

喘息とCOPDの共通点

症状

ACPの症状

COPDの症状は、咳や痰の持続にはじまり、重症化してくると息切れ(呼吸困難)を起こすようになります。ありふれた症状がゆっくりと進行するため、気づいたときには重症化しているケースも少なくありません。

喘息の症状は、気管支が慢性的な炎症を起こして細くなり、呼吸機能が妨げられるという点ではCOPDと共通していますが、発症や悪化の大きな要因としてアレルギーが関与するケースが多く、症状悪化による呼吸困難が発作的に起こり、発作が治まれば呼吸機能も正常に戻ります。

ACOでは、喘息あるいはCOPD患者に比べて、咳や痰、呼吸困難などの症状を認める頻度が高く、増悪を起こしやすかったりと重症度が高く、予後不良です。

炎症部位

ACPの炎症部位

喘息の特性の1つである気道過敏性亢進(刺激によって気管支が共作する特性)はCOPD発症の危険因子であり、一方で、通常であれば喘息と気づかずに経過する場合でも、COPD患者であれば喘息が顕在化しやすくなります。

このように、COPDと喘息それぞれの疾患がお互いの発症の危険因子となることもあります。

炎症細胞

ACPの炎症細胞

喘息は主にアレルギー性の炎症が主因であり、特に好酸球による炎症が特徴です。一方でCOPDはその大部分が喫煙を契機とする疾患であり、好中球性の炎症が特徴です。

喘息とCOPDの特徴

喘息 COPD
発症年齢 全年齢層 中高年層
要因 アレルギー、感染 喫煙、大気汚染
アレルギー歴、家族歴 認めることがある 認めない
気道炎症細胞 好酸球、CD4Tリンパ球
マスト細胞
好中球、CD8Tリンパ球
マクロファージ
症状(咳、痰、呼吸困難) 日内変動/発作性 緩徐な進行性・持続性・労作性
気流閉塞・形態変化 原則なし、リモデリング 肺胞破壊、細気管支線維化
気流閉塞の可能性 通常あり あり〜なし
気道過敏性 あり なし〜あり
肺拡機能 正常 低下
胸部CT上低吸収領域 認めない 認める
喀痰中細胞 好酸球 好中球
末梢血行酸球 増加 通常正常
呼気中一酸化炭素濃度 上昇 正常
ステロイド反応性 通常良好 反応性を認めない

喘息とCOPDのオーバーラップ診断と手引きより引用

気管支喘息とCOPDは、疾患の発症機序が異なっており、治療法も異なる独立した疾患です。

気管支喘息はアレルギーが主因で、好中球、マスト細胞、CD4陽性リンパ球などの多彩な細胞群が関与した中枢から末梢までの気道炎症によって特徴づけられ、ステロイド薬への反応性も良好です。

COPDは大部分が喫煙を契機とする疾患で、好中球、マクロファージが炎症の中心であり、ステロイド薬への反応性は認めません。こういった炎症像やサイトカインの違いから、喘息とCOPDは気道や肺の病理所見も異なります。

ACOの診断基準

基本的事項
慢性気流閉塞:気管支拡張薬吸入後1秒率(FEV1/FVC)が70%未満
COPDの特徴
1、2、3の1項目
喘息の特徴
1、2、3の2項目あるいは
1、2、3のいずれか1項目と4の2項目以上
1、喫煙歴(10pack-years以上)
あるいは同程度の大気汚染暴露
1、変動性(日内、日々、季節)あるいは
発作性の呼吸器症状(咳、痰、呼吸困難)
2、胸部CTにおける気腫性変化を示す
低吸収領域の存在(※1)
2、40歳以前の喘息の既往
3、肺拡散能障害(※2)
(%DLCO<80%あるいは%DLCO/VA<80%)
3、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)>35ppb
4-1)アレルギー性鼻炎の合併
4-2)気道可逆性(FEV1>12%かつ>200mLの変化(※3)
4-3)末梢血好酸球>5%あるいは300/μL
4-4)IgE高値(総IgEあるいは吸入抗原)

喘息とCOPDのオーバーラップ診断と手引きより引用

用語解説

※1)、胸部CTにおける気腫性変化を示す低吸収領域の存在とは
→肺胞壁の破壊により空洞が形成され、CT画像で黒く見える部分があること
※2)、肺拡散能障害(%DLCO<80%あるいは%DLCO/VA<80%)とは
→肺胞壁の破壊によりガス交換能力が低下している状態
※3)、気道可逆性(FEV1>12%かつ>200mLの変化とは
→短時間作用性β2刺激薬の吸入直後でスパイロメトリーを行い、変動を見る
改善率(%):(吸入後のFEV1-吸入前のFEV1)/(吸入前のFEV1)×100
改善量(mL):吸入後のFEV1-吸入前のFEV1


有意な気道可逆性 非常に大きな気道可逆性
改善率 12% 15%
改善量 200mL 400mL

ACO有病率

横軸に「年齢」、縦軸に「喘息とCOPDの合併率(%)」を示しており、COPD患者の20%以上が喘息を合併し、加齢に伴い合併頻度が増加することが報告されています。

日本においては、2005年の厚生労働省「気管支喘息の有病率・罹患率およびQOLに関する全年齢階級別全国調査」において、65歳以上の高齢者では、約4人に1人が喘息とCOPDを合併しているとの調査結果も報告されています。

ACO有病率

Gibson PG et al:Thorax 64:728-735,2009より引用

喘息を合併したCOPDの増悪頻度

縦軸を「患者割合(%)」で示しており、左のグラフが「頻回増悪」、右のグラフが「重度増悪」を示しております。

ACOはCOPDのみを有している患者と比較して、頻回増悪を起こす割合および入院を必要とする重度の増悪発現頻度が高いことが報告されています。

持続性の気流閉塞に加えて、発作性の気流閉塞を認め、気流閉塞は完全に正常に復さないため、ACOは喘息やCOPDと比べてもQOL(生活の質)がより低くなることから、早期に治療を始めていただくことが重要です。

ACO有病率

ACO有病率

GOLDステージ2以上の1059名を医師により喘息合併なしと診断された796名と合併ありと診断された199名を解析

Hardin et al. Respiratory Research 2011, 12:127より引用

喘息を合併したCOPDの予後

横軸に「時間経過」、縦軸に「累積生存率」を示しております。

COPDを合併したコントロール不良の喘息患者は、喘息非合併患者やコントロールされた喘息合併患者と比べて呼吸機能の経年的低下が早く、累積生存率が悪いことが知られています。

ACO有病率

対象:調査開始時に20歳以上であった人3099人
方法:調査開始時に喘息なし、発作のない喘息、発作のある喘息の3群に分け、COPDの発症について、20年間追跡調査した

Silva GE, et al:Chest 2004;126:59-65より引用

ACO(Asthma and COPD Overlap)治療

喘息の薬物療法の基本は吸入ステロイド薬による抗炎症療法であり、COPDでは気管支拡張療法を用いて治療を行います。

ACOでは長時間作用性β2刺激薬 / 吸入ステロイド薬配合薬、あるいは吸入ステロイド薬と長時間作用性抗コリン薬で治療を開始します。

治療効果をみながら長時間作用性β2刺激薬、あるいは長時間作用性抗コリン薬を適宜追加し、管理目標に沿った治療を行います。

ACOの管理目標

  • 1)症状およびQOLの改善
  • 2)呼吸機能障害・気道過敏性亢進の改善
  • 3)運動耐容能・身体活動性の向上および維持
  • 4)疾患の進行・気道リモデリングの抑制
  • 5)増悪の予防
  • 6)合併症・併存症の予防と治療
  • 7)生命予後の改善
  • 8)治療薬による副作用の回避

長時間作用性β2刺激薬 / 吸入ステロイド薬配合薬の種類

一般名 商品名 デバイス
サルメテロールキシナホ酸塩(β2刺激薬)
フルチカゾンプロピオン酸エステル(ICS)
アドエア ディスカス
エアゾール
ホルモテロールフマル酸塩水和物(β2刺激薬)
ブデソニド(ICS)
シムビコード タービュヘイラー
ホルモテロールフマル酸塩水和物(β2刺激薬)
フルチカゾンプロピオン酸エステル(ICS)
フルティフォーム エアゾール
ビランテロールトリフェニル酢酸塩(β2刺激薬)
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)
レルベア エリプタ

ACO有病率

長時間作用性抗コリン薬(喘息適応あり)

一般名 商品名 デバイス
チオトロピウム臭化物水和物 スピリーバ レスピマット

ACO有病率
スピリーバ
レスピマット

長時間作用性β2刺激薬/長時間作用性抗コリン薬/ステロイド薬配合薬の種類

一般名 商品名 デバイス
ホルモテロールフマル酸塩水和物(β2刺激薬)
グリコピロニウム臭化物(抗コリン薬)
ブデソニド(ICS)
ビレーズトリエアロスフィア エアゾール
ビランテロールトリフェニル酢酸塩(β2刺激薬)
ウメクリジニウム臭化物(抗コリン薬)
フルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)
テリルジー エリプタ

薬の種類 主な薬の商品名 薬の効果
テオフィリン徐放製剤 テオドール、テオロング 気管支の拡張や呼吸中枢の刺激作用により咳や息苦しさを改善します
ロイコトリエン受容体拮抗薬 オノン、キプレス、シングレア 体内のアレルギー反応を抑え、気管支を広げ喘息による咳の発作などを起こりにくくします。
チオトロピウム臭化物水和物 スピリーバ レスピマット
喀痰調整薬 ムコダイン、ムコソルバン 咳を抑え、痰を吐き出しやすくして気管支炎などによる呼吸器症状を和らげます。
抗IgE抗体 ゾレア IgEという体内の物質の働きを抑えることで、気道の炎症を鎮めます。
抗IL5抗体 ヌーカラ IL-5の働きを抑えることで、気道炎症や喘息発作を起こりにくくします。
経口ステロイド プレドニン、メドロール 炎症の悪化を防ぎ、喘息の発作を鎮める効果があるため、通常発作時に使用します。

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