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糖尿病について考える前に

 1)みなさんに知っておいてほしいこと(その一)
 2)みなさんに知っておいてほしいこと(その二)
 3)動脈硬化症の代表的な疾患には脳梗塞や心筋梗塞などがあります。
 4)境界型の糖尿病あるいは軽症の糖尿病といわれた方の治療はどうしましょうか?
 5)糖尿病の治療を始める前に知っておいて欲しいこと

私の糖尿病療法へ〜

 


糖尿病について考える前に

 1)みなさんに知っておいてほしいこと(その一)

 糖尿病の原因や診断についての話は後ほど致します。まずここで知っていていただきたいことは、インスリン非依存型といわれる成人に一般的にみられれる糖尿病には2つのタイプがあるということです。

1)一つは重症型である空腹時にも血糖が高い空腹時高血糖型糖尿病です。

  欧米人に多いタイプです。空腹時血糖が126mg/dl以上の場合です。このような方は糖負荷試験では空腹時にも、負荷試験の後にも血糖が高くなるひとです。


2)もう一つは軽症型である食後高血糖型です。

  日本人で多く見られるタイプです。日本人の糖尿病の70%はこのタイプです。   
日本人では糖の負荷に対するインスリンの追加分泌がヨーロッパ人に比べて少ないためです。原因はヨーロッパ人の肝臓は糖をよく吸収しやすいためと考えられています。

*この食後高血糖型の糖尿病をみつけるため、日本人の場合75g経口糖負荷試験が重要視されています。また、食後高血糖型糖尿病は糖負荷試験では境界型糖尿病といわれる場合もあります。


 2)みなさんに知っておいてほしいこと(その二)

 つぎに知っていて欲しいことは、糖尿病の治療の目的です。糖尿病の治療の目標は血糖を低下させることのみではありません。糖尿病において怖いのは血管の障害です。この血管の障害を予防することが一番の治療の目的です。
  糖尿病の合併症である血管の障害を防ぐことが糖尿病治療の目的ですが血管の障害のタイプには2種類あります。

1)細小血管症 

 糖尿病の合併症としてよく知られているのは、網膜、腎臓、神経です。これら三大合併症の防止は最重要目標です。
  これら三大合併症は、空腹時にも高血糖になる「空腹時高血糖型糖尿病」で起こってきます。
この比較的重症の糖尿病でおこってくる三大合併症の血管病変はとでも細い血管で認められ「細小血管症」といわれます。

*糖尿病のコントロールの基準としては、空腹時血糖126mg/dl、食後血糖180mg/dl、HbA1c 6.5%より悪い方があてはまります。

2)大血管症

  一方、食後高血糖などの軽症の糖尿病あるいは境界型のようないわゆる「前糖尿病」では、太い血管に動脈硬化がおこることが知られています。そのため「大血管症」といわれます。
  食後高血糖型の糖尿病では動脈硬化による脳、心、腎などの臓器障害を予防することにこそ治療の目標があるとされています。
実際に糖尿病の患者さんでは心筋梗塞の危険率が上昇することがシカゴなどの外国の例では示されています。


 3)動脈硬化症の代表的な疾患には脳梗塞や心筋梗塞などがあります。

1)”ひとは動脈とともに老いる”といわれます。

  脳や心臓の動脈硬化は、加齢によって進行します。さらに食事、嗜好(たばこなど)をはじめとした生活習慣からの病的変化によって、動脈硬化は加速されます。
  したがって、動脈硬化を極力抑制することによって、虚血性心疾患、脳疾患による病死をまぬがれることが予想されます(図)。

2)「高コレステロール仮説」

 よく知られていることですが、「高コレステロール仮説」、すなわち、コレステロール値の高い患者さんで動脈硬化、虚血性心疾患、脳梗塞のリスクが高いことは証明されています。

  しかし、日本では虚血性心疾患、狭心症、動脈硬化を有する患者さんにおいて高コレステロール血症の頻度を調べてみると約30%強しかありません。これに比べ、欧米諸国などでは約50%です。
  すなわち、日本人では動脈硬化のリスクファクターとして重要視すべきものは、高コレステロール血症のみではないと言えます。
 
  調べてみると、下の図のように、日本人では高血圧、高中性脂肪血症、糖尿病、喫煙といったリスクファクターが重要であることが示されています。

図 初回心筋梗塞発症患者における各リスクファクターの頻度

3)インスリン抵抗性

  日本ではコレステロールが高くなくても動脈硬化を発症する患者さんの割合が高いため、インスリン抵抗性がひきおこされる病態が基本となって動脈硬化が引き起こされてくるとわかってきました。
  インスリン抵抗性については後述いたしてますが、遺伝的に体質として個人が両親より受け継ぐ状態です。遺伝的な機序はまだ詳しくはわかってはいません。

  *参考までにのべますと、75g経口ブドウ糖負荷試験でのインスリンの分泌が血糖の上昇に比べ遅れてしまってインスリンが過剰に分泌されるのがインスリン抵抗性があるという状態です。たとえば、血中インスリン値が2時間値で 64μU/Lを肥えている場合約70%の的中率でインスリン抵抗性があると判定できます。


4)生活習慣病

  インスリン抵抗性がひきおこされる病態というのは、ひとりひとりの条 件の違いで、検査では異常なくみえたり、運動不足や過食などの環境要 因が関与することにより糖尿病、高脂血症、高血圧、高尿酸血症、動脈 硬化などの疾患として表現されたりします(図)。
  新しい視点「インスリン抵抗性」から、糖尿病と高血圧、高脂血症、動脈硬化といった各種の生活習慣病は、それぞれの領域をこえて、互いに関連する病気であることを示しています。
  糖尿病は高血圧、高脂血症、高尿酸血症などと同じくインスリン抵抗性によりひきおこされた病気です。年とともに次第にそれぞれの病気が水面から氷山の一部が頭もちあげてくるようなものだと考えられます。


5)インスリン抵抗性と動脈硬化

  インスリン抵抗性がどの程度に動脈硬化に関与しているか調べられています。インスリン抵抗性があれば耐糖能に異常が認められなくとも心筋梗塞をおこしてきます。
  さらに、心筋梗塞、狭心症の患者さんのうち、糖尿病の状態が悪いほど、多くの血管に病変のあるひどい心筋梗塞をおこしています。(下図)
 


(図)糖代謝の悪化程度およびインスリン抵抗性の有無による
心臓冠状動脈硬化病変の頻度の違い

  さらに、経口ブドウ糖負荷試験では血糖の動きは異常ないように見えても、インスリン抵抗性のある患者さんでは糖尿病患者さんと同じくらいの頻度で心筋梗塞は発症してくることが認められました。


 4)境界型の糖尿病あるいは軽症の糖尿病といわれた方の治療はどうしましょうか?

これはいい質問です。境界型糖尿病と軽症糖尿病にわけて解説します。
 
境界型糖尿病について
  境界型を示す人に対して「境界型です。糖尿病ではありませんから、安心していいですよ」というのか?「境界型ですから、ライフスタイルの改善をしながら、きちんとした経過観察をしなければなりません」とい うのか?どちらでしょうか?

1)これまでのいろいろな研究から、境界型は放置してはいけないグループとなっています。
  糖尿病でコントロールのよくない患者さんのかなりの割合の人が、何年か前は境界型であることを考えると、その時点での指導と予防が必ずしもうまくできていなかったのではないかという反省があります。
 境界型にたいしてはまず生活習慣の修正が第一義です。
  ほかに高脂血症や高血圧などがあれあば、それに対する治療をしたうがよいでしょう。

2)境界型糖尿病には2種類あります。

    i) 血糖の異常は非常に軽いひと
      (例えば、糖の負荷試験で2時間値が120mg/dlをちょっと越えた人 です。)

  高脂血症や高血圧があるひとの場合動脈硬化のリスクが高く、大血管症がおこりやすいので、治療の必要があります。それがなければ、経過観察とします。
     
    ii)耐糖能の異常が重い人
     (例えば、糖の負荷試験で2時間値が200g/dlに限りなくちかいひと)

  動脈硬化のリスクがなくても、糖の負荷試験の1時間値が180mg/dl以上の人は糖尿病になってしまうリスクが高いわけですから、やはりライフスタイルの是正に介入すべきだと思います。
   
  また、糖の負荷試験2時間値が180g/dlをこえると網膜症、腎症が悪化してきます。このような方は、まず、食事指導をすべきだと思います。   

  3)経過観察の頻度は?

    糖尿病の家族歴のある人や肥満症の人は半年に一度くらいの経過観察をする必要があります。

軽症糖尿病について

 1)軽症糖尿病の定義
 
  空腹時血糖値が正常であっても、糖の負荷試験で耐糖能異常があれば、軽症糖尿病に入れてよいと考えられます。また、耐糖能が正常であっても、インスリン分泌が抑制されていたり、負荷後30分のインスリン分泌の立ち上がりが悪い場合、将来糖尿病を発症するリスクが高いので、軽症糖尿病と考えてよいと思われます。

  現在では、血糖値の高いことによる糖毒性のもたらす悪影響の意味がかなり明らかとなっています。従って、血糖値は可能なかぎり正常域の110mg/dlに下げるべきであるという時代となっています。

  その意味で空腹時血糖値は正常でも糖の負荷試験の2時間値が少し高めであれば、軽症糖尿病として治療対象賭すべきでしょう。
 
 2)軽症糖尿病をどう扱ったらよいのでしょうか?

  まず指摘しておきたいことは、空腹時血糖値だけを指標にしても合併症は予防できないという点です。

  そして、治療としては具体的には、教科書的となりますが、ライフスタイルの改善です。すなわち、食事療法を始めるための栄養指導と運動療法の指導、さらに糖尿病教室での集団指導ということになると思います。

  実際には、こうしたライフスタイルの改善の継続がもっとも難かしいと思います。短期間なら実践してもらえるのですが、長期継続が難かしいです。

  ライフスタイルの改善というのは、例えば食事療法では「制限、制限、制限」で、患者さんには楽しくないわけです。ですから、強制ではなしに、喜びや楽しみを味わいながら生活習慣を変えられるという方向にもっていきたいものです。


 5)糖尿病の治療を始める前に知っておいて欲しいこと  

1)軽い糖尿病の治療の基本は、やはり、食事・運動療法にあります。
まず1から2ヶ月は食事療法について勉強し、実践することが大事です。特に、肥満のみとめられる方は、適正体重に近づかないと糖尿病の治療が始められません。

かなりの効果が見られる場合には、運動と食事だけでも血糖は著しく改善され、薬物療法は必要としない場合も多くあります。

2)しかしながら、糖尿病の治療をはじめようとする方にはじめからこんなことをいうのも何ですが、実は血糖のコントロールというものはとても難しいのです。

それに比べて血圧や高脂血症の治療は最近かなり簡単になってきました。血圧や高脂血症の治療については、食事療法もかなりうまくいきます。これら血圧、高脂血症の治療のためのくすりも多種類あっていずれもとても効果的です。

したがって、糖尿病といわれたらまず血圧と血中の脂肪のレベルをきっちりと理想的な状態を保つようにして下さい。具体的には、血圧は120/80以下位、血中の脂肪は悪玉コレステロールであるLDLコレステロールで100mg/dl以下です。

3)どの程度の血糖コントロールにするか

2型糖尿病というインスリン非依存型糖尿病患者さんについての指標が最近低下する傾向にあります。

50才以上の中年から80才前後の高齢者については次の4)にしめすようなコントロール目標を念頭に置くことが重要です。

例えば、東大の門脇先生の外来で食事療法単独や経口糖尿病薬で治療されているかたで空腹時血糖が120mg/dl未満にコントロールされている2型糖尿病患者さんの食後血糖を調べてみたそうです。その結果、約半数のかたでは食後血糖値は200mg/dlを超えていたそうです。高血糖自体がブドウ糖毒性によってインスリン分泌抑制やインスリン抵抗性をさらに増悪させうることから考えると、食後高血糖の持続的抑制は糖尿病治療の根幹であるといっても過言ではありません。

 4)糖尿病のコントロールの指標

  糖尿病のコントロールは ヘモグロビンエーワンシー(HBA1c)という指標が基準になります。


●ベストコントロールとは?
  ほとんど正常に近いコントロールで、網膜、じん臓、神経の三大合併症の発症を防ぐことのできるレベルです。

●まあまあのコントロールとは?
  ほぼこのレベルであれば、合併症の頻度も低いため、短期的には合併症の予防に有効なコントロール域とされています。空腹時血糖126、2時間値200という糖尿病の診断基準に近い値です。
  動脈硬化といった血管合併症(脳硬塞、狭心症、心筋梗塞)が潜在的に進行していると考えられ、可及的に「ベストコントロール」にもっていく必要があります。

●コントロール不十分域
  脱水などの急性合併症はないが、三大合併症が潜在的に進行している と考えられます。

●コントロール警戒域
  脱水なども伴いやすく、治療を見直し、合併症の検査なども必要です。また、同時に患者指導を十分に行うことが必要です。
  

 5)糖尿病のコントロールの指票としてのHbA1cの意義

 へもぐろびんえーわんしー(HbA1c)は主に採血2ヶ月前より採血時までの平均血糖応答をあらわしています。
  HBA1cの数値の半分はおそらく夜間血糖値を反映し、残りの半分は日中3食の食後血糖応用状況を反映していることでしょう。

 6)糖尿病の合併症とHbA1cの関係

 糖尿病の合併症とHbA1cの関係を次表に示します。
HbA1cの数値を1%下げれば、糖尿病の合併症は35%減少するとされています。
0.5%の低下ならば約20%程度の原書を期待することが出来るわけです。
  実際の生活の中で、糖尿病の治療を続けていくことで、HbA1cの低下を持続させることができればきわめて有意義です。

 

   
 
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